物心ついた時から、母はいつも自分の髪を気にしていました。朝、鏡の前で熱心にドライヤーを当て、分け目を隠そうと工夫している姿を子供ながらに覚えています。そして、その母の母、つまり私の祖母も、晩年はウィッグを愛用していました。「うちの家系は髪が薄くなりやすいのよ」と、母は冗長に、でもどこか諦めたようにそう言っていました。その言葉は、私にとって一種の呪いのようなものでした。十代の頃から、自分の髪が他の子よりも細いのではないか、ボリュームがないのではないかと、常に気にしていました。友人との写真を見返しては、自分の頭頂部ばかりを目で追ってしまう。そんな自分が嫌でたまりませんでした。20代後半になり、仕事のストレスもあってか、シャワーの後の抜け毛が明らかに増え始めた時、ついに「その時が来た」と絶望的な気持ちになりました。母や祖母と同じ道を辿るしかないのだ、と。数ヶ月間、一人で悩み、インターネットで情報を漁る日々が続きました。しかし、ある日、ふと思ったのです。母や祖母の時代と今とでは、情報も技術も全く違う。彼女たちが知らなかった対策が、今の私にはできるのではないか、と。その小さな希望を胸に、私は皮膚科の門を叩きました。医師は私の話をじっくりと聞き、遺伝的素因は確かにあるかもしれないが、打つ手はたくさんあると力強く言ってくれました。その言葉に、私はどれだけ救われたことでしょう。そこから私の挑戦が始まりました。まず、鉄分や亜鉛、タンパク質を意識した食事に変え、毎晩ストレッチをしてから眠るようにしました。そして、医師に処方された外用薬の塗布も日課になりました。すぐに髪がフサフサになったわけではありません。でも、抜け毛が減り、髪に少しだけハリが出てきたのを感じた時、私は遺伝という呪縛から解放された気がしました。運命は、受け入れるだけでなく、自分の力で切り開いていけるのだと、髪が私に教えてくれたのです。
母から受け継いだ髪の悩みと私の選択