私たちの体は、様々なサインを通して不調を訴えかけます。抜け毛もその一つであり、時に深刻な病気のSOSであることがあります。単なる見た目の問題として片付けず、体の声として真摯に受け止めることが大切です。例えば、バセドウ病や橋本病といった甲状腺機能異常は、抜け毛の主要な原因の一つです。甲状腺ホルモンは新陳代謝をコントロールしており、その分泌異常は全身に影響を及ぼします。バセドウ病による甲状腺機能亢進症では、代謝が過剰になり、髪の成長サイクルが早まり、休止期の毛が増えて抜け毛が加速します。一方、橋本病による甲状腺機能低下症では、代謝が停滞し、髪の成長が遅くなり、細く、乾燥しやすくなり、結果として抜け毛が増えます。これらの病気は、抜け毛以外にも、体重の増減、だるさ、動悸、むくみなどの症状を伴うことが多いです。また、円形脱毛症は、自己免疫疾患の代表例です。免疫システムが毛根を異物と誤認して攻撃し、突然、円形に髪が抜けるのが特徴です。ストレスが誘因となることもありますが、根本には免疫系の異常があり、アトピー性皮膚炎や甲状腺疾患、膠原病などの自己免疫疾患を併発することもあります。さらに、特定の皮膚病も抜け毛と密接に関連しています。脂漏性皮膚炎は、頭皮の皮脂が過剰に分泌され、マラセチア菌という常在菌が異常繁殖することで起こる炎症性の病気です。かゆみ、フケ、赤みを伴い、炎症がひどくなると毛根にダメージを与え、抜け毛が増加することがあります。白癬(しらくも)も、真菌感染によるもので、感染部位の髪が抜け落ち、皮膚が赤く炎症を起こすことがあります。これらの皮膚病は、適切な抗真菌薬やステロイド剤で治療することで改善が見込めます。女性に特有の抜け毛の原因として、出産後のホルモンバランスの急激な変化による分娩後脱毛症も挙げられます。これは一時的なものが多いですが、気になる場合は産婦人科や皮膚科で相談することが大切です。抜け毛は、単なる見た目の問題ではなく、私たちの健康状態を反映する重要な指標です。普段と違う抜け毛に気づいたら、自己判断せずに専門医の診察を受け、体のSOSを見逃さないようにしましょう。
抜け毛から読み解く体のSOS