抜け毛は、多くの人にとって悩みの種ですが、その背後には、時に私たちが気づかないような病気が潜んでいることがあります。単なる遺伝や加齢、ストレスの問題として片付けず、体の発する微妙なサインとして受け止めることが重要です。特に注意すべきは、髪の毛だけでなく、全身の健康に影響を及ぼす病気です。例えば、膠原病の一種である「強皮症」では、皮膚が硬くなる症状が特徴的ですが、頭皮の血行不良や皮膚の線維化により、脱毛が起こることがあります。指先の冷えやむくみ、関節の痛みなど、他の全身症状を伴う場合は、専門医の診察が必要です。また、「慢性的な感染症」も抜け毛の原因となり得ます。例えば、HIV感染症や結核など、免疫機能に影響を与える感染症は、体全体の消耗を招き、毛髪の成長サイクルを乱し、抜け毛を増加させることがあります。これらの病気は、発熱や倦怠感など、他の症状を伴うことが多いため、抜け毛と同時に全身の不調を感じる場合は、医療機関での検査が不可欠です。さらに、精神疾患の一部も抜け毛と関連することがあります。「トリコチロマニア」(抜毛症)は、精神的なストレスや不安、強迫観念などから、無意識のうちに自分の髪の毛を抜き取ってしまう病気です。これは物理的な脱毛ですが、精神的な要因が大きく関与しています。また、重度のうつ病や統合失調症など、精神的なバランスが大きく崩れる病気では、自己管理能力の低下や栄養状態の悪化により、抜け毛が増加することもあります。これらの場合、抜け毛だけでなく、気分の落ち込みや意欲の低下、睡眠障害など、精神的な症状も伴うため、精神科医の専門的なアセスメントと治療が必要です。意外なところでは、「薬の副作用」も抜け毛の原因として見落とされがちです。高血圧治療薬、抗うつ薬、抗凝固薬、一部の関節炎治療薬など、様々な薬剤が毛周期に影響を与え、休止期脱毛を引き起こすことがあります。新しい薬を服用し始めてから抜け毛が増えたと感じたら、医師や薬剤師に相談し、薬との関連性を確認することが重要です。このように、抜け毛は単なる美容上の問題ではなく、私たちの体の奥底で何らかの変調が起こっているサインである可能性があります。自分の抜け毛にいつもと違う変化を感じたら、決して放置せず、専門医の診断を受け、隠された病気の早期発見に努めることが、健やかな生活を送るための第一歩となるでしょう。